谷和樹の教育新宝島

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谷和樹の解説

国語は数学と同じ
「駿台全国模試」はレベルが高いことで有名です。
受験業界では「最難」レベルです。
東大・京大等の難関志望校を目指す子たちが受験します。
受験生のレベルがケタ違いに高い。
それなのに、4割でも解ければ平均クラスになります。
7割解ければ、たぶん偏差値70を超えるでしょう。
向山は、その駿台模試の国語で「満点」を取りました。
「満点」です。
「国語」です。
数学なら、たまに満点があっても驚きません、
でも駿台の国語で満点は、ありえません。

ちなみに、小学校の国語テストなら満点を取る子はたくさんいます。
私もその一人でした。
他の教科はできませんでした。
でも、国語だけはよかったです。
授業はほとんど聞いていません。
テスト勉強もしません。
でも、テストは解けるのです。
小学校ではほぼ全部100点でした。
中学校では全部とは言いませんが、概ね80〜90点以上はとっていたと思います。
高校でも、国語の受験勉強をした記憶はありません。
設問を読んで、問題文を見ると、「なんとなく」解けてしまうのです。
受験科目が国語だけだったらいいのになあ、と思っていました。
おそらく、両親が読み聞かせをしてくれたおかげでしょう。
本を読むのは好きでした。
読むスピードも速いほうだったと思います。
そんなに速く読んで分かっているのか、とよく聞かれました。
私としてはそれが普通だと思っていました。
向山に会うまでは。

向山が本や資料を読むスピードは尋常ではありません。
「フォトリーンディング」をしているのかな?
と思って尋ねてみたこともありますが、違うとのこと。
読むスピードも驚きです。
しかし、「駿台模試」の「国語」で満点はもっと驚きです。
私のように「なんとなく」分かるというレベルでは、絶対にそうなりません。
なんとなく、答えは分かりました。
でも、
「なぜそれが答えになるのか」
それを、高校生の私は説明できませんでした。
「いや、答えはこれに決まってるじゃん」
という感じで感覚的に答えていた記憶があります。

後に、私は向山に国語指導法を習います。
そして気付きました。

そうか、国語は数学だったんだ。

私のように感覚で解ける子もいます。
それは、たくさんの本を読んだからです。
様々な文脈がパタン認識されているのです。
AIの学習方法と似ています。
小中レベルではそれでもOKでしょう。
でも、高校レベル以上になると、それで満点を取るのは難しくなります。
数学のように論理的に答えを決める方法をとるのです。

向山には、超圧倒的な読書量がありました。
おそらく感覚的にも解けたはずです。
加えて、向山は論理的にも説明できました。
それは、向山が小学校時代の経験が源流だと思います。
「東工大」のお兄ちゃんたちから問題を出される経験です。
向山の実家は印刷工場でした。
試験問題なども印刷していました。
東工大のお兄ちゃんたちが問題作成のアルバイトをしていたのです。
小学生だった向山少年に、お兄ちゃんたちは数学の問題などを出題してくれました。
その優秀なお兄ちゃんたちが、国語の問題を作っていたときのこと。
お兄ちゃんがつぶやくのを、向山少年は聞きました。
「あっ、いけね!正解を2つ作っちゃった!」
「正解が2つ」です。
理系の東工大のお兄ちゃんたちの
「論理的な問題づくり」
のマインドがうかがえますね。
国語の問題というのは、
「答えが1つに決まる」
のです。

私たちが指導する子どもたちの中には、読書量も多くない、国語が苦手な子たちもたくさんいます。
感覚的な解き方はできません。
でも、論理的な解き方を教えると、どの子もできるようになるのです。

1 「向山式要約指導法」を知ってる?
国語の問題は答えが1つに決まります。
「要約」ももちろんそうです。
正しく要約したなら、要約文はみんな同じになります。
子どもたちも上手にできるようになります。
向山は1990年にその方法を発表しました。
方法を聞いた新潟大学附属小の大森修は言いました。
「向山式要約指導法」を何でもっと早く言ってくれなかったのですか。
そのことを当時の『教室ツーウェイ』に向山が書いています。
図

「教室ツーウェイ」1991年2月号

それほど衝撃的だったのでしょう。
向山の要約指導法は骨格がハッキリしています。
それを見るまえに、ちょっと演習してみましょう。

2 試しに要約してみよう
「ニホンザルのなかまたち」という文章があります。
全部で十段落あります。
その一段落目です。

ニホンザルのなかまたち

河合雅雄

宮崎県串間市に、幸島という島があります。ここには、やく百頭のニホンザルが、むれを作って住んでいます。わたしたち研究者は、全部のサルに名前をつけ、三十年以上前から研究をつづけています。

これを、20字で要約してみてください。
向山がかつて講座で演習したときには、参加者から次のような要約文が出ました。
1 私達は30年以上日本ザルの研究をしています(21字)
2 私達は、ニホンザルの研究をしています(18字)
3 私達は、幸島のサルの研究をしています(18字)
4 幸島の日本ザルがむれを作ってすんでいます(20字)
5 宮崎の幸島のニホンザルを研究した(16字)
6 ニホンザルの研究が続けられている幸島(18字)
7 幸島に百頭の日本ザルがむれを作っている(19字)
8 幸島にサルをかい、研究している(15字)

バラバラですね。
みなさんと比べていかがでしょうか。
第一段階は、子どもたちに、このようにいきなり要約させてみるのです。
できない感覚。
正解がわからない感覚。
そこから学習はスタートします。

3 要約の原理
要約というのは、「文章を短くまとめること」です。
ちなみに「要旨」というのは「その文章が主張しているもっとも大切な点」です。
「要旨」は説明的な文章で使います。
文学的な文章では「主題」と言います。
整理すると、こうなります。

図
この中の「要約」を今回は取り上げています。
要約の原理は四段階あります。
下は、向山が要約指導をまとめたメモです。
図
まず、要約を向山は正確に定義します。

最小限の文字で、内容を正確に表したもの
先ほど私が紹介した定義よりシャープですね。
最小限の文字で、内容を正確に表すために、次のことが必要になります。

A キーワードの確定
B 最も大切な語句
C 要約文の作成
D 体言止め
この四段階です。
最も重要なのは「キーワード」の選定です。
初歩的な指導ですから向山は漫画を例に挙げています。

図
図
と書いてあり、その下に
「内容なり、テーマなりを表現している」
とあります。
今なら、「竈門炭治郎」とか「NARUTO」とか「綾瀬千早」とかで説明するのでしょうか。
それはみなさんが考えてくださいね。

このABCDは「要約の原理」です。
指導の実際は、また別です。
向山の指導は、次のように進みます。

4 要約指導の実際
1)まず要約してみる
先ほど、やりましたね。
「ニホンザルのなかまたち」の第一段落です。
何はともあれ、要約させてみます。
要約する文章は何でもかまいません。
国語の教科書でいいでしょう。
何でもかまいませんが、1つだけ条件があります。
教師が要約できていること
先ほどの向山の講座では、教師たちの要約が「バラバラ」になりました。
それでは、子どもたちに指導できません。
まず、教師が要約の原理を知ること。
実際に要約できるようになっていること。
それが大前提です。
そうは言っても、すぐには難しいですよね。
そこで、指導の第二段階をみてみましょう。

2)要約の練習をする
要約の練習は、難しい文章ではできません。

(1)誰でも知っている簡単な文章を選ぶ(例:桃太郎)
向山は「桃太郎」を選びました。
「桃太郎」のお話を知らない日本人はまずいません。

(2)お話を語らせる
最初は、誰かに桃太郎のお話を語らせます。
教師が語ってもかまいません。

(3)それを20字に要約させる
なぜ20字なのかは、経験則です。
子どもたちの要約を板書させます。
バラバラにな要約になるでしょう。

(4)板書を採点する
子どもたちが書いた板書をみんなの前で採点します。
採点基準は10点満点で、
「キーワードが3つ入っている」(1つにつき2点)
「一番大切なキーワードで体言止め」(+2点)
「日本語として正しい」(+2点)
といった程度でいいでしょう。
初めてであれば、ほとんどの子が5〜6点、まれに8点、という程度になります。
(5)3つのキーワードを確定する
「要約では大切なキーワードを3つくらい選ぶのです。桃太郎で大切なキーワードを3つ書き出しなさい」
このように指示します。
これは、ほとんどの人が次の3つを選ぶでしょう。

1 桃太郎
2 鬼退治
3 犬猿きじ

「桃太郎」は当然ですね。
先ほどの漫画の話をしてあげてもいいでしょう。
「鬼退治」も当然です。
桃太郎が鬼退治に行って帰ってくるのがお話の骨格です。
「犬猿きじ」はちょっと悩む子がいるかもしれませんね。
でも、他のキーワードと比べてみれば分かります。
「きびだんご」
「おじいさん、おばあさん」
「お姫様」
いずれも、犬猿きじに比べれば重要度は下がります。

(6)一番大事なキーワードを確定する
「この言葉がなければ、この話が成り立たない」
という言葉です。
それは「桃太郎」ですね。
「鬼退治」も大事ですが、桃太郎がなければこのお話は成立しません。

(7)一番大事なキーワードで体言止めにさせる
体言止めについては、習っていなければ難しい子がいるかもしれません。

2)体言止めの練習をする
そこで、体言止めだけを取り上げて練習するパーツを入れます。
体言止めをみんな分かっているのであれば、このパーツはいりません。

昨日、私は、公園へ行った
「これを『私』を強めて、『私』で終わるように書き直しなさい」
と指示します。
もちろん、

昨日、公園へ行った私
となりますね。
さらに、続けます。
「『昨日』を強めて、『昨日』で終わるように書き直しなさい」

私が公園へ行った昨日
となります。
「私は」を「私が」に書き直す必要があります。
日本語として素直に読めるように修正するのですね。
そして、最後の問題です。
「『公園』を最後に持ってきて書き直しなさい」

昨日、私が行った公園
などとなります。
3)桃太郎の要約を完成させる
ほとんど全ての子が同じ要約になるでしょう。
犬猿きじと鬼退治をした桃太郎
そのうえで、先ほどの「ニホンザルのなかまたち」の第一段落の要約に、もう一度挑戦してみましょう。

ニホンザルのなかまたち

河合雅雄

宮崎県串間市に、幸島という島があります。ここには、やく百頭のニホンザルが、むれを作って住んでいます。わたしたち研究者は、全部のサルに名前をつけ、三十年以上前から研究をつづけています。

まず、キーワードですね。
多くの人が次のキーワードを選んだのではないでしょうか。

ニホンザル
研究者(私達)
三十年以上前

「幸島」を選んだ人もいるかも知れません。
でも、それは「事例」です。
全文を読めばわかります。
「幸島」という言葉は他には出てきません。
ポイントは「ニホンザル」一般です。
ところで、「ニホンザル」のキーワードは、これで間違いないでしょうか。
「ニホンザルのむれ」では?
研究者たちが研究したのは次のどちら?

1 ニホンザル
2 ニホンザルのむれ

そうですね。
タイトルに
「ニホンザルのなかまたち」
とあります。
また、最後の十段落は次のようにまとめられています。

このように、ニホンザルは、大きなむれを作り、おたがいになかよく平和にくらしています。
ここでは「むれ」という概念が大切なのです。
それは、「なんとなく大切」なのではありません。
タイトル、本文、最後の段落等から論理的に決まります。
そうすると、第一段落の要約は次のようになります。

私達が三十年以上研究したニホンザルのむれ(20字)
このように、力のある人が要約すると、ほとんど同じ要約文になるのです。
ちなみに「体言止め」は必須ではありません。
小中学生に教えるのに「一番大切なキーワード」を意識させやすいから体言止めにするのです。
それは「指導法の工夫」です。
要約文は必ず体言止めにしなければならない、ということではありません。

5 様々な場面で応用しよう
まず、この要約を教師ができることが大切です。
ここから、様々な展開が可能になります。
指導の詳細と教材文への向山の書き込み等は、今回の特典資料についています。
みなさんもぜひ研究してみてください。

さて、こうした指導について、若干批判的な意見をお持ちの方もいるかも知れません。
かつて、文科省の初中局で調査官をされていた水戸部修治は次のように書いています。

単に要約スキルを教え込んで、それを訓練させれば要約力が付くわけではなく、多様な目的や必要性に応じて要約することを繰り返しながら行うことしか、要約する力を高めることはできないのです。

(『単元を貫く言語活動の授業づくり』文溪堂 2014)

ここには2つのことが書かれています。
第一に、
「多様な目的や必要性に応じて要約することを繰り返しながら行うことしか、要約する力を高めることはできない」
という点です。
そんなことはありません。
それでは、それぞれの子がどんなバラバラの要約をしてもいいことになってしまいます。
「人に紹介する」という目的で「話題を選んで要約」する場面があることは分かります。
でも、その前に基本的な要約スキルを身につける必要があります。
第二に、
「単に要約スキルを教え込んで、それを訓練させれば要約力が付くわけではない」
という点です。
そんなことはありません。
そもそも、「単に要約スキルを教え込んで」いるのではありません。
向山が提起した指導では、次のようなことを教えています。

1 要約とは「最小限の文字で、内容を正確に表したもの」であること。
2 キーワードを3つ程度確定すること
3 最も大切なキーワードを特定すること
4 日本語として正しい要約文にすること

こういうのを「見方・考え方」と言います。
子ども向けには「ものさし」と言ってもいいし、「ツール」とか「武器」とか言ってもかまいません。

言葉による見方・考え方
= ものさし
= ツール
= 武器

これを学ぶと、子どもたちは「未知の文章」に出会っても、自分たちで要約をしていけるようになります。
かつ、「武器」を手にしていますから、互いに相手の要約を検討し合えるようになります。
より主体的で探究的な学習が広がることになるでしょう。

以下、向山のメモの全体像を引用しておきます。

図

出典・引用文献
1)向山洋一『教室ツーウェイ1991年2月号』(明治図書)p.4
2)向山洋一「教材文(向山メモ)」1990 向山実物資料A09(1)-75-02
3)向山洋一「要約指導メモ」 向山実物資料A09-135-01
4)向山洋一『教室ツーウェイ1991年2月号』(明治図書)p.9-11
5)新巻賢三郎『教室ツーウェイ1991年2月号』(明治図書)p17-20
6)向山洋一「授業構想メモ」1990 向山実物資料A09(1)-75-03
7)水戸部修治著『チャレンジ!単元を貫く言語活動の授業づくり—小学校国語科』文渓堂 2014
https://www.amazon.co.jp/dp/4799900951/

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