谷和樹の教育新宝島

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谷和樹の解説

「人だからこそ」の身体感覚
「高いところ」が好きでした。
東京タワーとか高層ビルとか。
時々、
「透ける床」
みたいなの、ありますよね。
ああいう上に立つと、もちろんちょっと「ザワッ」とはしますよ。
でも、ワリとすぐに慣れます。
子どもの頃から高いところに登るのが好きだったんです。
遊園地のジェットコースター。
遊園地のフリーフォール。
そういうのも怖くなかったです。
落ちる瞬間、ワクワクします。
飛行機が旋回しながら降りていくとき。
窓から地平線が斜めになっていくのも大好きです。
もう少し若かったら
「スカイダイビング」
もやってみたかったなって思います。
あ、でも、バンジージャンプはイヤです。
なんか危なそうなんで。

「隅っこ」が好きでした。
大人たちがコタツとかでガヤガヤしている。
その横で、壁と壁の90度のコーナーにくっついて、本なんかを読んでいるのが好きでした。
自分の部屋で寝ていても、布団の真ん中じゃなくて、端っこの壁にくっついて寝てました。
なにか安心感がありました。
小3くらいのとき。
正月とかだったのでしょうか。
親戚が家にきて騒いでいました。
例によって、私は隅っこの壁のコーナーにはさまって本を読んでいました。
父親がそれをみて
「おっ、和樹は "隅に置ける男" だな」
と言ったのを、長い間
「褒められた」
とカン違いしていたのを覚えています。

「狭いところ」も好きでした。
よく毛布とかにグルグル巻きになるのが好きな子いますよね。
のり巻きみたいな感じで。
私もそうでした。
小学生のとき近所の雑木林につくった秘密基地も狭かったです。
小学校の狭い教材・教具室に入るとワクワクします。
ガランとした広々空間は落ち着きません。
今でも、仕事場はコックピットみたいに何でも手の届くところにギューッと置いてあるのが好きです。

※ちなみに、
 私の師匠の向山は、
 高いところも狭いところも嫌いです。
 なので、私も本当は嫌いになりたいんですが。
 そこが、私が一流になれない弱さでしょうか(^^)

ところで、こういう身体感覚。
これって人間特有なんでしょうか。
いや、狭いところが好きな犬とか猫もいますよね。
生物特有?
少なくともAIやロボットには、
「高いところが好き」
とか、ありえないですよね。
最近、私は

教師の身体感覚
というテーマに少しハマっています。
AIが隆盛です。
ものすごい勢いで新しいAIが次々に登場しています。
その機能も脅威の速さで進化しています。
進化のスピードに追いつくのは大変です。
しかも、最新のAIは
「感情表現」
ができるようになってきています。
声の質やスピードも変えられます。
それが高度なAIアバターやロボットに実装されたら?
近い将来、人間の反応とほとんど見分けがつかなくなる可能性もあります。
そんなとき、

教師という「人間」が
教室という「空間」で
子どもたちと「時間」を
共有する意味

それが、すごーく大事になってくるんじゃないか。
そんな感覚があるんです。
みなさんはいかがですか。

1 白々しい「課題づくり」の授業
向山の有名な授業に
大造じいさんとガン
があります。
なぜ有名なのかというと

子どもたちが「401問の問い」をつくった
からです。
「401問の問い?」
どういうこと?
って思いますよね。
向山には、次のような問題意識がありました。

図
「課題づくり」
という授業を向山は参観したのです。
「課題づくり」
というからには、子どもたちが課題をつくるはずです。
ところが、できた課題は
教師の課題そっくり
だったのです。
向山は書きました。
これは、見え見えの「やらせ」です。
これに対して、向山が提起した
「問題づくり」
は、次の流れになっています。

図
一時間目は通読です。
当然ですね。
二時間目。

図
純粋に問題を作らせています。
ほとんど全くバイアスをかけていません。
問題をつくらせ、できたものを持ってこさせ、褒める。
それだけです。
三時間目。

図
普通は「分類」とかするのでは?
なんと「問題集」として配布、です。
そしてその後は、

図
問題集を解き、最後に教師が演習問題を出して検討させるのです。
それまでの「課題づくり」の授業とは、全く組み立てが違っています。
この授業は、雑誌等でも取り上げられました。
向山の著書にも詳細が出ています。

向山洋一『分析批評で授業を変える』
p.140〜 TOSSメディア https://lib.tossmedia.jp/20180719013/book/

※TOSSメディアは有料コンテンツです。閲覧のためには別途お申し込みが必要です。

その結果、多くの教師に影響を与えました。
教師が強く誘導する白々しいそれまでの課題づくり。
それとは一線を画していたからです。
今月のメルマガ特典では、冊子と映像までついているようです。
そうした資料から、ぜひ各地で勉強会などをやってみてください。

2 向山の見取りと介入の技術
(ノートチェック)
さて、ここで私が取り上げたいのはこの授業の詳細ではありません。
それは、上に紹介した資料でご覧いただけます。
取り上げたいのは、
向山の見取りと介入の技術
です。
この授業の映像が残っています。
上の計画の「九時間目」の授業でしょう。
授業の冒頭、向山は演習問題を読み上げます。
これです。

図
そして、子どもたちに指示します。
書き終わった人、見せにきなさい。
子どもたちは書きます。
立ち上がって向山に紙を見せに行きます。
このような指導技術を

個人を見取る技術
と私は呼んでいます。
例えば、次のような場面があります。

1 こちらから見る
  1)机間巡視での見取り
    (ノート・クラウド)
  2)観察による “活動・発言・動き” の見取り
    (動作・状態・ログ)
2 申告させる(持ってこさせる)
  1)通過ポイント(関所)の設定
  2)内容の関所
  3)時間の関所

向山の動画では上の2の1)ですね。
できた人から申告させ、持ってこさせるわけです。

さて、この部分の向山の「見取り方」が興味深いのです。
当時の向山学級には40人の子どもがいます。

40人の意見を、向山は何分で見終わるでしょうか。
40人全員ですよ。
紙に書かれているのはそれぞれ異なった「意見」です。
もしこれが、算数なら事情は全く違います。
同じ問題だけを見ればいいからです。
◯か×かは簡単にわかります。
でも、これは「国語」です。
「どうして、これでは答えられないのでしょう」
に対する意見。
それをそれぞれの子がバラバラに書いているのです。
みなさんなら、全員を見終わるのにどのくらいの時間がかかりますか?
「全員」ですよ。

まず、基準を示しておきましょうか。

40人を5分以内
これが合格ラインです。
持ってこさせる場合でも、机間巡視でも同じです。
やってみれば分かります。
5分は至難の技です。
5分で見ることができるなら、教師としてかなりの腕の持ち主です。
そして、5分の場合、次の問題が生じます。

先に見てもらった子たちに空白ができる。
つまり、早かった子がヒマになるのです。
そこで、気の利いた教師は、次のようにいいます。
「見せた人は他の問題を解いて待っていなさい」
あるいは
「先着10名だけ見ますね」
のような場合もあります。
それでも、若干の混乱は生じます。
先ほど、40分を5分以内が合格ラインと言いました。
もっと腕のいい教師なら、

40人を約2分

で見ることができます。
このような教師は、めったにいません。
私も現役時代、挑戦しました。
かなり難しかったです。
そこで、向山です。
何分で見たでしょうか。
映像がありますから。
どなたでも検証できます。

1分15秒
1分15秒です。
とんでもない速さです。
単純に割ると一人あたり
「約1.9秒」
で見ていることになります。
でも映像を見ていると、
「1秒以内」
で見ていると感じるシーンもあります。
「子どもが持ってくる速さよりも、向山が見る速さのほうが速い」
という感覚さえあります。
その向山の「見るしぐさ」には特徴があります。

1)全くコメントしない
反応は「はい」という言葉だけです。
評定もしなければ、褒めることもしません。
「はい」
ということで
「見たよ」
というメッセージだけを伝えているのです。

2)紙を手に持ってみている
子どもたちが持ってきた紙。
それを一人ひとり、向山の手にとって見ています。
子どもが手に持っている紙に向山もちょっと手を添えるといった感じもあります。
それがさらに
「見てくれた」
という子どもたちの感覚を高めています。

3)目線をあちこちに向けている
基本は子どもが持ってきた紙を見ているわけです。
でも、注意深く、教室のあちこちにも目をむけています。
当然、子どもたちの様子をモニタリングしているのです。
1分15秒しかかかっていませんから、空白はほとんど生じません。
子どもたちは、見せたら席で座って待っています。

4)一回一回、左手を頬にあてる
この意味はわかりません。
向山の癖でしょうか。
意味はわかりませんが、私はこういう向山のしぐさが好きです。
弟子ですので。
いずれにせよ、こうした向山の身体の使い方。
これは、AIにはない特徴でしょう。

3 向山の見取り(内容を覚える)
さて、1分15秒という高速です。
「はい」
と言って通過させるだけなら簡単です。
でも、それでは見たことになりません。
持って来させて教師が見たということは

子どもが書いた内容を覚える
ということが前提です。
それができないなら、見る意味がありません。
向山は、高速で見ながら、すべての内容を覚えてしまいます。
授業中の緊張感が、脳の働きをより活性化させるのかも知れません。
もちろん、私も挑戦しました。
難しいです。
覚えられません。
「えーと、◯◯君だったかな」
「いいの書いてたよな」
「なんだっけ」
という状態になりがちです。
あなたはいかがでしょうか。
でも、今は「クラウド」があります。
PadletとかMiroとかに書かせればいいです。
書いた瞬間に見ることができます。
同時に一覧することもできます。
忘れても手元で確かめることができます。
「見たよ」というサインを「タップするだけ」で知らせることもできます。
便利になりました。
そうしたICTの良さを私たちは使いこなせているでしょうか。
さて、向山の時代は「紙」しかありません。
だから、子どもの意見を一覧するためには、
・短冊に書かせて黒板に貼る
・子どもたちに板書させる
などの方法を当時はとっていたのです。
その時代に向山は、

1)1分15秒で全員をみる。
2)その内容を覚える。
3)その中から重要なものを取り上げる。

ということをやっていたわけです。
4 向山の介入
(重要なものを取り出して広げる)
ところで、「覚える」だけなら、
「おそらくAIのほうが得意」
ですよね。
子どもたちが書いた内容の中から、どれを取り上げるか。
その「人間の判断力」がポイントです。
みなさんなら、どんな内容を取り上げますか?
「いい意見」?
「討論になりそうなもの」?
「対立している2名」?
いずれもあり得ます。
そのときに、子どもたちがどんなことを書いたのか。
教師はどんなことをねらっているのか。
それによっても変わりますよね。
だから、絶対これ!
という内容はありません。
向山はここで、2名を取り上げます。
その場で、瞬間的に判断し、瞬間的に取り上げたわけです。

まず、一人目。

こういう答えがあります。
「いつのことか分からない」
と書いてあるのですが
これだけでは、いつのことか、先生に分かりません。
この「いつ」というのは何をさしているのか。
もっと正確に書いていらっしゃい。

この時点で、「苦笑い」の反応をしている子もいます。
そして、二人目。

こういう答えもあります。
「言葉が足りない」
これも、言葉が足りなくてわかりません。
どういう言葉が足りないのか、
つけ加えて持っていらっしゃい。

この時点で一人の子が
「えぇーっ・・・」
とため息をつくような反応をします。
「きびしぃーっ」
って感じの反応です。
向山はかまわずタタミかけます。

ちゃんと正確に、わかるように答えられたら
もう一度持っていらっしゃい。

いや、すごいですね。
このときに出題されていた演習は、
「どうして、これでは答えられないのでしょう」
でした。
それに対して、
「いつのことか分からない」
と書いたら
「お前の書いた『いつ』もいつのことかわからない。
 書き直せ」
と言われているわけです。
「言葉が足りない」
と書いたら
「お前も『言葉が足りない』
 書き直せ」
と言われているわけです。
再度、整理します。

1)1分15秒で全員をみる。
2)その内容をすべて覚える。
3)その中から2名を選ぶ。

そのうえで、先程のような
「言い回し」
で伝えているわけです。
現状、とうていAIにできる技ではないなと思います。

5 見取りと介入の前提条件
なぜ、向山はそんなことができるのでしょうか。
技量が高いから、と言えばそれまでです。
そうした高い技量の一般的な前提条件として、私は次の項目をあげました。

1 見取る「視点」を持っていること
   ・・・・・ ←教材研究・単元構成力
  1)授業の目標が明確/ルーブリックがある
   ・・・・・ ←全員到達のゴール
  2)子どもたちの実態がわかる
   ・・・・・ ←その子にとってのゴール
  3)その他

2 見取る「技量」が高いこと
  1)年間を見通している
   ・・・・・ ←遠くが見える
  2)子どもの微かな変化がわかる
   ・・・・・ ←細部がみえる
  3)関連付けて見える
   ・・・・・ ←つながりがみえる
  4)発言したい子がわかる
   ・・・・・ ←微かな身体の動きがみえる
  4)子どもたちの意見を覚えている
   ・・・・・ ←上級者のスキーマがある
  5)その他

もちろん、これだけでは説明できないこともあるでしょう。
こうしたテーマを意識して実践・研究してくれる先生が増えるといいなと思います。

出典・引用文献
1)向山洋一「大造じいさんとガン授業の構想」1986向山実物資料A12-01-01
2)401個の問題集「大造じいさんとガン」1986 向山実物資料A12-02-10〜11
3)向山の演習「大造じいさんとガン」1986 向山実物資料A12-02-01〜06
4)児童感想文「大造じいさんとガン」1986 向山実物資料A12-09-01〜05

関連リンク
1)向山洋一『分析批評で授業を変える』p.140〜
  (TOSSメディア https://lib.tossmedia.jp/20180719013/book/)

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