谷和樹の教育新宝島

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谷和樹の解説

マネしたほうがいいです
上達には「絶対の条件」があります。
1 お手本の模倣
2 反復による習熟

これです。
「何かが上手になるにはどうしたらいいか・・・」
ってことを、最近ずっと考えてるんですよね。
その第一の条件が「模倣」です。
つまり「マネをしろ」ってこと。
これだけは、間違いないような気がします。
もしか、

生まれてから死ぬまで、誰のマネも一切してません。
100%完全にオリジナルでしか勝負してません。

っていう人がもしいたら、世界をくつがえす天才です。
たぶん、いないと思います。

それで「マネしてる」関係を調べているんですが。
例によって脱線してしまいます。
そういえば、あの曲ってマネマネ・・・
とは言わないけどちょっと似ているっぽいよな、とか。

古い人しか分かりませんが

「必殺仕事人」の「殺しのテーマ」
ってありますよね。
大好きな番組の大好きなシーンでした。
高音のトランペット。
「タリラー、タララリラッタラ、タリラー・・・」
みたく始まるやつです。
あれが
「アランフェス協奏曲」
の第2楽章の出だしにそっくり。
っていうのは有名な話です。

アニメ「日本昔ばなし」の出だしの
「ぼうや良い子だねんねしな──」
は、デューク・エイセス「女ひとり」の
「京都大原三千院──」
とそっくり。

「知床旅情」(1988)の出だしの
「知床の岬に、はまなすの咲くころ──」
は、「早春賦」(1913)の出だしの
「春の名のみの、風の寒さや──」
とそっくり。
そんなこというなら、その2曲はモーツァルトの
「春へのあこがれ」(1791)にもそっくり。

ドリカムの「Love Love Love」(1995)は
Leo Sayerの「When I Need You」(1977)にそっくり。
そんなこというなら、その2曲はAlbert Hammondの
「落葉のコンチェルト」(1973)にもそっくり。

嵐の「One Love」(2009)のサビは
浜崎あゆみの「MY ALL」(2008)にそっくり。
そんなこというなら、その2曲は松たか子の
「真冬のメモリーズ」(1997)にもそっくり。

じゃあ、後からのは全部ダメってこと?
そうじゃないですよね。
どれもいい曲だと思います。

こういう例はいろんなジャンルに山ほどあります。
島崎藤村の名作「夜明け前」(1929)の出だし
「木曽路はすべて山の中である・・・」
これが「木曽路名所図会」(1805)の
「木曽路はみな山中にあり・・・」
を下敷きにしているのも有名な話です。
(横山滋『模倣の社会学』丸善1991 p.3等)

私の大好きな映画「マトリックス」。
士郎正宗の「攻殻機動隊」が元ネタなのは有名です。
ウォシャウスキー本人たちがそう言ってます。

だったら、ドラマ「古畑任三郎」は「刑事コロンボ」が元ネタですし、「エヴァンゲリオン」には「ウルトラマン」のオマージュがたくさん入ってますし「スターウォーズ」には・・・とキリがありません。

ちょっとふざけすぎました。
ところで「マネマネ」「模倣」「創造性」・・・
そういうのって、どこに区切りがあるんでしょうね。
だって、みんなだって
「C Am Dm G」
のコード進行、使うでしょ。
物語だって、ほとんど全部
「行って帰る話」
でしょ。

私はかなりの数の提案授業を発表してきました。
研究会やセミナー等で公式に発表したものだけで、少なくとも100は超えています。
その多くは

向山洋一の模倣
だと自覚しています。

1)ほぼ全く同じだが微かに変えたもの。
2)内容は違っても構造がほとんど同じもの。
3)一部似ているもの。

別に開き直っているわけではありません。
私の上達にとって「師の模倣」は必須でした。
今でも模倣し続けています。
最近また、読み返している本。

1)齋藤孝『天才がどんどん生まれてくる組織』
2)安部崇慶『芸道の教育』
3)マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』
その他

1 「春」を初めて追試するなら
マネといえば、私が自分のクラスで初めて
「すげー!」
って、実感した授業があります。
春     安西冬衛
てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。

これです。
私は新卒2年目だったでしょうか。
向山洋一『授業の腕をみがく』(1987)を読みました。
はじめて「追試」したのです。
今思えば「追試」どころか「模倣」にも、いや「マネマネ」にすらなっていないレベルだったろうと思います。
ともかく、本にあった指示、発問をやってみたわけです。
驚きました。

子どもの反応が全く違う
そして、本に書いてあるのとほとんど同じような意見が出てくるのです。
「すごい」
と思いました。
「これがプロの授業か」
とも思いました。
向山の「春」(安西冬衛)の実践は少なくとも5つあります。

1)1977(5年)
2)1980(5年)
3)1982(4年)
4)1985(3年)
5)1986(5年)

初めて「追試」する人は、3)から勉強するといいです。
向山の4年生への実践です。
『授業の腕をみがく』に載っています。
ただこの本は手に入りにくいので、

【DL版】年齢別実践記録集 第20巻 完全原本・幻の「学級通信アチャラ」
(教育技術研究所 https://www.tiotoss.jp/products/detail.php?product_id=3684

全く同じ記述があるこちらの本でもOKです。
実践が詳細に描写されています。
次の本も参考になります。

伴一孝『向山式分析批評で知的な授業001』 pp.7-10
TOSSメディア https://lib.tossmedia.jp/239617/book/
(閲覧には会員登録・年会費が必要です)

概要を見たいならこちらのサイトもあります。
堀田和秀「【ミニランド】向山実践「春(安西冬衛)」を追試する」TOSSランド
https://land.toss-online.com/lesson/8PTG5TzQwFITg7QcKrGj

2 すぐれた授業は学年を超える
さて、今回は「1985(3年)」の実践を取り上げます。
これは文章も文字起こしも残っています。
映像も残っています。
今月のメルマガの付録についてくるようです。
ぜひご覧になってください。
ただし、ちょっと特殊です。
「3年生への実践」
だからです。
だって、この詩ですよ。

春     安西冬衛
てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。

これを小学校3年生に授業
できる自信ありますか?
もともとの向山実践は5年生です。
普通は4年生でも難しいでしょう。
向山は次の問題意識を持っていました。

図

1985年11月2日のことです。

図
たくさんの人が参観していました。
結果として「圧倒的」な状態になりました。
今でも「向山の代表的な授業」のひとつとして記録に残っています。
この向山の「春」の実践。
さすがに2年生以下では無理があるかも知れません。
でも、小学校3年生から大学院生にも授業できます。
年齢が変わってもほとんど同じ反応になります。
文章を分析するという構造が同じ

だからです。

そして

分析する方法が明確

だからです。
3 3年生の「春」─導入の場面─
教室でやってみたい?
先ほど紹介した資料にすべての発問・指示がでています。
ただ、気をつけたほうがいいポイントもあります。
今回の付録の動画から見てみましょう。

1 活動から入る
授業開始後、いきなりです。
子どもたちを起立させます。
「さっきの授業の詩の題(土)」
これを「空書き(そらがき)」させています。
授業を始めるとき、
1)形式的なあいさつをしたり
2)よけいな雑談をしたり
3)くどくとと説明したり

そういうことはしません。
すぐに「学習活動」に入るんです。
書かせる、言わせる、読ませる・・・
「活動」というのは「動きがある」ということです。
2 少しひっかかる問題を出す
「土」は簡単です。
間違えません。
そこで2つ目に「上」を出題します。
これは間違う子が出ます。
向山はにこやかに
「見事に間違えています」
「タテ、ヨコヨコですね、はい」
と言ってちょっと修正させています。
微かに緊張感が生まれるわけです。

3 本題の伏線を出す
3つ目の空書きは、三好達治の「達」です。
これは4年生の漢字です。
子どもたちは
「できない!」
と言いますが
「できる人だけやってみます」
と、これもにこやかに、テンポよくやります。
数名しかできません。
これはもちろん
「韃靼海峡」の「韃」を読ませるための伏線です。

ここまで、適当に空書きさせたわけではありません。
「組み立てた3問」
なのです。
みなさんが追試するときにも
「土、上、達」
の空書きをしなければならない、ということじゃありませんよ。
3時間目に、金沢から来た先生がたまたま三好達治の
「土」の授業をしたのです。
それを、その場で引き取ってこの組み立てにしたのです。
みなさんが追試をするときには、詩を板書して読ませるところから始めてもいいでしょう。
でも、その前の時間に何かあったなら、

そこから「つながる」ことを考える
という大きな考え方、その技。
それをこそ、マネしたいわけです。

4 板書する
さて、向山は詩を板書します。
ふつうは身体を「少し斜め」にします。
子どもたちに目線を送りながら板書するからです。
「四分六の構え」
と言ったりします。
でも、向山はそうしていません。
まっすぐに黒板を向いています。
子どもに背をむけ、ゆったりと書いています。
子どもたちが
「見えない!」
と言っているのがわかります。
でも、向山は身体をずらしません。
これは「意図的」だと私は思います。
向山は
「写さなくていいです。読みます」
と言って板書し始めています。
つまり、ここでは
「ノートに書かなくていい」
ということ。
「読みたいけど、先生は何を書いているのか」
と、かえって子どもたちは黒板を注目します。
板書後半で向山がしゃがみます。
下の方を書くからです。
これも意図的でしょう。
ここから子どもたちの声が大きくなります。
さらに、「安西冬衛」にはルビをふります。
「韃靼海峡」にはふりません。
難しいので、子どもたちはガヤガヤとします。
そのガヤガヤの中、向山は何と指示をするでしょうか。

5 列指名で読ませる
なんと
「4列起立」
です。
子どもたちが
「えぇーっ」
と悲鳴をあげるなか
「4列起立」
をにこやかに、明確に2回繰り返します。

ブーイングにぶれない
のもポイントです。
そして
「前から読んで、読んだらすわります」
と指示します。
4列の先頭にいるのは小布施(こぶせ)くんです。
参考までに座席表を引用しておきますね。

図

この小布施くん。
迷いがありません。
向山が「読んだらすわります」と言った、その瞬間。
向山の指示にむしろかぶせるようなタイミングで
「はる あんざいふゆえ てふてふがいっぴき なんとかなんとか うみ なんとかを わたっていった」
と、堂々と読んですわります。

難しいところは「なんとか」と読んでいい
ということが、すでに身についています。
これまでの授業で、そうした場面があったのかも知れません。
その小布施くんが読んでいるとき。

それを聞いている他の子たちの表情も素敵です。
ちなみにこの小布施くんと同じ列。
前から3人目の増田くん。
増田くんは向山先生が「しゅうちゃん」と呼んでいる子です。
この2人は、この後の討論で重要な役割をします。

さて、4列は全員男子でした。
向山は
「とても上手ですよ」
などと満面の笑みで褒めています。
続けて
「5列起立」
5列は全員女子です。
向山は適当に12名に読ませたのでしょうか。
そうではないと思います。
まず、最初の男子の列は
「やんちゃくん」
が多い感じです。
意図的に最初に当てて突破させようとしたのかも知れません。
次に5列に進んだのはなぜでしょうか。
4列の男子は、どの子もみんな「韃靼海峡」を「なんとかなんとかウミなんとか」のように読みます。
「ほぼ同じ」なのです。
ところが、5列の女子の読み方は変化します。
向山は最後に読んだ女子2名を取り上げます。

同じようですが、
吉川さんはここを「カイ」って読んだんですよね。
「カイなんとか」
西沢さんは「ウミ」って
「ウミなんとか」って読んだんですよね。

これを「見取り」といいます。
男子は6人とも「海」を「ウミ」と読みました。
女子は先頭の江口さんと5人目の吉川さんが「カイ」と読んだのです。
それを向山は聞き取っているわけです。
そして、つぎのように「介入します」

同じようだけど、きっと意味があるんでしょうね。
教師がその場で見取り、それを価値づけて広げる。
その典型的な場面です。
この介入の後、変化します。
先ほどの小布施くんが手をあげました。
「カイ」の読み方に影響をうけて「かいきょう」を思い出したのでしょう。
次のように読むのです。
「てふてふがいっぴき かいきょう…ドーバーかいきょうをわたっていった」

4 追試報告をお待ちしています
「春」の授業は分析したい内容が多すぎます。
今回は導入の授業分析だけで終わってしまいました。
この後、向山の授業では3年生がこの詩で討論します。
先ほどの小布施くん、そしてしゅうちゃんの意見がその議論の中心になります。
向山がその討論を展開する技。
例えば、ノートに書かせる場面。
例えば、ノートを持ってこさせる場面。
例えば、意見を取り上げる場面。
等々、さらに解説したいところです。
詳細は今月号の解説付録をご覧ください。
私も機会があればまた触れてみようと思います。
みなさんが追試されたら、ぜひその報告をお聞かせください。
楽しみにお待ちしています。

出典・引用
1)向山洋一『学級通信スナイパー』調布大塚小5年1977 向山実物資料A65-05-01
2)向山洋一「5年国語科学習指導案」1980.12.2 向山実物資料A65-30-01
3)向山洋一『学級通信アチャラ』調布大塚小4年1982 向山実物資料A65-08-01
4)向山洋一「向山学級授業参観要項」1985.11.2 向山実物資料A65-11-01
5)「春」(安西冬衛)座席表1985.11.2 向山実物資料A65-14-01

関連リンク
1)横山滋『模倣の社会学』丸善1991 p.3
2)齋藤孝『天才がどんどん生まれてくる組織』2005 新潮社
3)安部崇慶『芸道の教育』1997 ナカニシヤ出版
4)マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』1980 紀伊国屋
5)向山洋一『授業の腕をみがく』1987 明治図書
6)【DL版】年齢別実践記録集 第20巻 完全原本・幻の「学級通信アチャラ」 教育技術研究所
https://www.tiotoss.jp/products/detail.php?product_id=3684
7)伴一孝『向山式分析批評で知的な授業001』 pp.7-10 TOSSメディア https://lib.tossmedia.jp/239617/book/(閲覧には会員登録・年会費が必要です)
8)堀田和秀「【ミニランド】向山実践「春(安西冬衛)」を追試する」TOSSランド https://land.toss-online.com/lesson/8PTG5TzQwFITg7QcKrGj
9)武田晃治「春(向山洋一氏の追試)」TOSSランド https://land.toss-online.com/lesson/aariwno3cengwnwd

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