谷和樹の教育新宝島

特典資料

谷和樹の解説

6年1組学級経営案
流麗な文体
文章が上手いと言われたことはありません。
向山には、私の文章の書き出しに
「0点」
をつけてもらったことさえあります(^^)
他の先輩方からいただく評も
「まあ、谷の文章はな・・・」
「がんばってるけどな・・・」
のようなニュアンスがほとんど。
まあ、それはそれでしょうがないです。
努力してないわけでもないし。
ちょっと、ひらきなおっています。
でも、流麗な文体には憧れがあります。

まず代表は吉永順一です。
『仕事の定理』をいただきました。
その内容はもちろんすばらしいです。
その文体もまた、私にとっては圧倒的です。

物語のひとつになるはずだった。
日本の暑さに悲鳴をあげた。ゲーム時間の移行を要求した。4大大会を制したプレイヤーが、そこまでして参加する意味はなんだったのか。

(吉永順一『仕事の定理』p.10)

───こんな書き出し、自分もやってみたいなーって思いますが、とてもできません。

もう一人、向山行雄。

越前(福井県)を貫通する九頭竜川。名称どおりの暴れ川が流路を変えつつ、肥沃な越前の平野を形成した。その土地で米が収穫できる。米作りは、やがて富の蓄積となる。民度が向上し、神社仏閣も建立される。

(向山行雄「祭り囃子が聞こえてくる」『教育トークライン』2025年8月、p.66)

いや、私など絶対に書けませんね。
知的で流麗な文体っていうのは、こういうお二人のようなものを言うのでしょう。

ちなみに向山(洋一)は『教師修業十年』のあとがきで、5つの文体の使い分けに言及しています。
次の5つです。

1)論文風
2)大衆小説風
3)美文風
4)叙述風
5)私小説風

(向山洋一『向山の教師修業十年』学芸みらい社 p.299-300)

ここでは引用しませんが、ぜひご覧ください。

「教師が文章を書く機会が減っている」
そんな声を聞いたことがあります。
「働き方改革」でしょうか。
形式的な文書をなくすのは私も大賛成です。
でも、次のものも廃止すべきでしょうか。

1)学級通信
2)学級経営案
3)学習指導案

この3つも廃止していいのかな。
だったら先に廃止すべきものがあるんじゃないかな。
って思うのは私が年寄りだから?
教師が自分の個性を磨き、
クラスの子どもたちの育ちに願いをもち、
その願いを主張していくとき、
それを文章として表現できる最適のツール、
それがこの3つでは?

1 学級経営案の形式
学級経営案が単に
形式的なフォーマットに流し込むだけ
になっているなら、廃止したほうがいいと思います。
学級経営案というのは、本来個性的なものです。
個性的でないなら、それは学級経営案ではありません。
かつて、向山は次のように書きました。


(向山洋一「学級経営案はどう書くべきか」
『特別活動研究』1981年4月号 No.162、明治図書、p.17)
1 学級経営案はどのようにも書きうる

これが結論です。
それはなぜでしょうか。

2 教室における教育には個別的側面がある
これがポイントです。
あなたの学級と、隣の学級とは違うのです。
子どもたちが違います。
その家庭が違います。
指導する教師も違います。
教師の経験年数も、技量も違います。


(向山洋一「学級経営案はどう書くべきか」
『特別活動研究 1981年4月号 No.162、明治図書、p.17-18)
学級経営案は個性的なもの。
したがって、学級経営案に過度な形式を要求するなら、本末転倒です。
しかし、逆に次のことは必ず書くべきなのです。
1 一人一人の子どもの実態
2 教師の願いとしての学級の目標

学級経営案のこうした特徴については、次のメルマガでも触れました。

1【教育新宝島】vol.71 Part1(2025年4月11日)
 「向山の学級経営案」
 「目標の設定方法」等

2【教育新宝島】vol.80 Part1(2025年6月13日)
 「子どもの実態を正確にとらえる」等

まずは、上の2つを読まれてから、今回のメルマガをお読みになると、より分かりやすいと思います。

2 学級経営案の個性的な目標設定
本来個性的であるはずの学級経営案。
向山が書いた、最も有名で、最も代表的な学級経営案は、1978年のものです。
その全文は『教師修業十年』の巻末に掲載されています。
ここでは向山の直筆の原稿をもとに、その構成をザッと学びましょう。
まず、冒頭。

1 小学校教育の基本

そこから書き始めています。
普通は書かなくてもいい内容です。
でも、向山は次のことにこだわっていました。

学校教育は、すべての面にわたる教育をするという全面性に貫かれている。どれほどすぐれた塾の教育も、決して学校教育の代用にはなりえない。

この「担任としての願い」をこそ、
向山はまず書いておきたかったのです。
これをふまえて、向山は次の主張をします。

こうした
「根本的な立脚点」
を担任として意識した教育。
今のみなさんの教室ではいかがでしょうか。
私はまったく及びません。
みなさんとぜひ意見交流したいものです。
そして、向山の次の記述です。

再度、
「学級経営案は本来個性的であるはず」
いや、
「個性的でなければならない」
ということが、強く主張されていますね。

そのうえで、次に「教育目標」です。

なんと教育基本法から書き始めています。
これも、普通は書かなくていい内容です。
しかし、向山は、こうした法律の示す目標に「不満」がありました。
「かなりの悪文」
「不足している面もあるように思える」
とも評しています。
法律などの上位目標を、批判的に検討しながら、
向山の「教育目標分析」は、次のように進みます。
1 小学校教育の基本
    ↓
2 教育基本法における教育目的
    ↓
3 学校教育法・学習指導要領における目標
    ↓
4 学校教育法・過去の学習指導要領の対比分析
    ↓
5 調布大塚小学校の教育目標
    ↓
6 向山の学級目標

徐々にエリアをせばめていますね。
当然、上のほうが一般的で汎用的。
下にいくほど個性的で個別的です。
一番下の「自分のクラスの学級目標」
それが隣のクラスと同じ表現なら意味がありません。
また、単に直感的に書いても意味がありません。
自分のクラスの学級目標は、次の3つをもとに決めます。

1 上の各レベルの目標
2 その担任の強い願い
3 子どもたちの実態

「1 上の各レベルの目標」
というのは、

1)法律レベル
2)学習指導要領レベル
3)学校レベル
4)学年レベル

ってことですよね。
これら上位レベルの目標を無視することはできません。

「2 その担任の強い願い」
これがあるから、上位レベルの中から
「とりわけ、これに力を入れる」
というものがイメージできます。
ただし、願いだけが空回りしてもダメですよね。

「3 子どもたちの実態」
これをできるだけ正確にアセスメントし、
子どもたち一人ひとりの苦手を克服し、
得意を伸ばしていく。
そうした目標設定であるべきでしょう。

1978年の向山は、次の学級目標を設定しました。

「前述したような各レベルの目標と、後述するような児童の実態から」
という記述が大切ですね。
しかし「目標」だけでは、子どもたちにとってイメージしにくいです。
そこで、「目標」の下位項目としての
「級訓」
も設定しています。

言うまでもありませんが、
上の「目標」を下の「級訓」がより具体的にしているわけですね。
一対一対応には、もちろんなりません。
ですが、強めに関連していると思えるものを結ぶと、

  「目標」       →   「級訓」
1)健康な子      → 1)努力の持続、4)一匹狼の
2)知性に満ちた子   → 2)誤りなき恐れ、4)一匹狼の
3)人間を大切にする子 → 3)ひとりはみんなのために

こんな感じでしょうか。
そのクラスの子どもたちが実際に経験したエピソード。
それをもとにしている言葉です。
一つひとつが
「行動を促す」
ための言葉になっています。

学級目標はこれで終わりではありません。
さらに、さらに、下位目標を向山は設定しています。

ここでは詳細は省きますね。
これを私は
「2 習得させる力の具体化がすごい」
として、【谷和樹の教育新宝島】vol.71 Part1で、少しだけ紹介しました。
これを発展させて、先ほど紹介した吉永順一は校長時代に「必達目標」を公開しています。
(吉永順一『必達目標で学力保証のシステムをつくろう』明治図書、2003年)
3 児童の実態をどうとらえるか
向山の目標設定は、児童の実態をもとにしています。
児童の実態。
みなさんは、何を調べていますか。
向山が調査した児童の実態の項目は次のとおり。

1 保護者(父親、母親、養父、シングルマザー等)
2 保護者の職業
3 準要保護
4 区域外通学
5 転校予定
6 進学希望
7 通塾分布
8 カギっ子
9 健康
  1)虫歯
  2)近視
  3)鼻炎
  4)肥満
  5)偏食
  6)歯をみがかない者
  7)朝食がたまにぬける者
  8)けんすいが1回もできない者
  9)発作あり
10 知的状況
  1)家で机に向かう時間
  2)テレビ視聴時間
  3)日記の提出率
  4)2年以上継続している趣味
  5)各教科の嫌いな者
  6)整数・小数・分数の加減乗除の不合格者
  7)市販テスト(まとめ)の得点分布
  8)知能偏差値
  9)音読に問題がある者
    助詞の使用に問題がある者
    漢字習得に問題がある者
    計算技能に問題がある者
    6年算数の学習が困難な者

昭和53年の時代ですから、令和の現在ではそのまま使えないものもあります。
このすべてをしっかりと調べるのはかなり難しいでしょう。
ですが、今でも参考になる項目がたくさんあります。
とりわけ、

9 健康
  「8)けんすいが1回もできない者」

10 知的状況
  「1)家で机に向かう時間」
  「2)テレビ視聴時間」(今ならスマホ・ゲーム)
  「3)日記の提出率」
  「9)の各項目」

これらは、非常に大切な項目だと思えます。
向山の児童の実態把握はこのあと
「交友関係」
に進みます。
昭和53年当時ですから、
「ソシオメトリックテスト」
を実施していますね。
これは、今では信頼性、妥当性、倫理性等の批判もあり、ほとんど実施されていません。
でも、みなさんがこうした調査をなさるのであれば、その他の方法も開発されています。
(【谷和樹の教育新宝島】vol.66 Part2 Q4で触れました)

4 環境の実態をとらえているか
向山は
「児童の実態」
だけではなく、
「環境の実態」
も分析しています。
調べた項目は次のとおり。

教室環境
1 机・椅子 身体に合わない子
2 照明   雨の日は照度基準以下
3 通風   換気扇の音が気になる
4 騒音   工事中のため基準をこえている
5 備品   小黒板他 80点あまり
6 作業空間 係り毎のロッカー
7 掲示   教室前面は教師用。それ以外は児童に

向山は「教室環境の実態」の結論として

教室が子どもの事を真に考えてつくられてないということである。
と書いています。
今の令和の教室は、いかがでしょうか。
上の項目の中では例えば、
「1 机・椅子 身体に合わない子」
は重要です。
特別支援やUDへの考え方が進んでいる現在では、
当然、
「様々なタイプの机と椅子」
が教室に準備され、
「子どもが自分に合ったものを選べる」
ことが必要だと思います。
「2 照明」
もまた重要です。
「十分な自然光」がいいのはもちろんです。
ただし直射日光の眩しさは避けたほうがいいとも言われています。(Lucinda Barrett他「Clever Classrooms」2015.2 University of Salford, Manchester)
あるいは
「7 掲示」
を児童に向山は開放していますね。
今なら、現在進行中の活動の掲示の他に、長期記憶を支援する掲示なども考えられそうです。

こうした環境面まで目配りした学級経営案は、ほとんどありません。
しかし、その教室が持っている個性的な環境での1年間は、子どもたちに大きな影響をあたえます。
しっかりと検討し、配慮する必要があります。

5 学級経営の月別展開図
向山の学級経営案、最後の項目は
「学級経営の展開」
です。
教科指導等の留意点等が極めて具体的に計画されています。
吉永順一は『仕事の定理』のp.183で
「指導は布石の連続」
と書きました。
そして、

ひと月にして驚異的に変化した向山学級
を分析しています。
吉永はその布石として4つのことを挙げています。

1 認め
2 ほめ
3 励まし
4 伸ばす

です。
この4つは単に直感的に実行されていません。
周到な計画と準備があるのです。
ここまで紹介してきたような実態調査があり、
目標の設定があり、
具体的な指導の留意点が列挙されている。
だからこそ、それに応じて適切に認め、ほめ、励まし、伸ばしていけるのでしょう。
今回紹介した『教師修業十年』に載っている学級経営案の、その最後の一行に次の記述があります。

三 学級経営の月別展開図(略)

この(略)というのが気になる!
この展開図が見たい!

そういう声を時々いただきます。
ここに、向山が著書には載せなかった月別展開図を、特別に掲載しておきます。

このような1枚ものの展開図。
今なら、スプレッドシートで簡単に更新、共有できます。
みなさんが、みなさんの展開図を工夫し、提案してください。
いらない仕事の削減は大切です。
しかし「学級経営案を廃止」という働き方改革よりも、

より教育効果が上がる学級経営案

をこそ、追究していただけると嬉しいです。

出典・引用
1)向山洋一『特別活動研究』1981年4月号 No.162、明治図書、p.17-22
2)向山洋一「6年1組学級経営案(四代目)」調布大塚小学校、1978年、向山実物資料A22-19-01

参考・関連リンク等
1)吉永順一『仕事の定理』2025年、私家版、p.10
2)向山行雄「祭り囃子が聞こえてくる」『教育トークライン』2025年8月、p.66
3)向山洋一『向山の教師修業十年』学芸みらい社、2017年、p.299-300
4)吉永順一『必達目標で学力保証のシステムをつくろう』明治図書、2003年
5)Lucinda Barrett他「Clever Classrooms」2015.2 University of Salford, Manchester
https://salford-repository.worktribe.com/output/1414916/clever-classrooms-summary-report-of-the-head-project

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